【連載】白衣のポケット ~薬剤師の小さな宝物~
かかりつけ薬局百名店に加盟する、全国の先生方がバトンをつないで綴るリレーエッセイ。
普段、カウンター越しには見えない先生の「心の中」や、診察室で生まれた「小さなドラマ」。 白衣のポケットにしまってある、処方箋には書けない大切な物語をお届けします。
記念すべき第一回は、株式会社アトイ 神奈川県相模原市「ブルーム薬局上溝店」の高橋透泰先生からスタートです。
薬を増やす「足し算」の前にできること。
はじめまして。神奈川県相模原市、ブルーム薬局上溝店で薬局長を務めております、高橋透泰(たかはし ゆきやす)と申します。
私の趣味は野球やランニングです。
体を動かすことが好きで、走りながらふと「あの患者さん、体調は落ち着いているかな」と思考を巡らせることも少なくありません。
私が勤務する薬局では、外来の方への対応はもちろん、在宅医療(訪問薬剤管理指導)や学校薬剤師としての活動など、地域に根ざした「顔の見える薬剤師」を目指しています。
今回は、私の薬剤師としての姿勢を再確認させてくれた、ある忘れられない経験をご紹介します。
「薬を飲んでいるはずなのに…」数値が悪化した理由
以前、外来に来られていた80代の男性の方のエピソードです。 その方は糖尿病でお薬を服用中でしたが、受診の間隔が空きがちで、検査数値も少しずつ悪化していました。
窓口でお話を伺うと、ご本人は「薬はちゃんと飲んでいる」と仰います。 しかし、残薬の状況や生活のリズムを考えると、私はどこか違和感を抱いていました。「もしかすると、ご本人が気づかないうちに飲み忘れが生じているのではないか…」と。
医師への提案と、在宅医療への切り替え
そんな矢先、病院から新しい処方せんが届きました。 そこには、血糖値を下げる薬の追加と、服用回数を増やすという指示が書かれていました。
その時、私の頭に一つの懸念が浮かびました。 「もし原因が飲み忘れだとしたら、薬の種類や回数を増やしても、混乱を招いて事態は悪化するだけではないか?」
そう考えた私は、すぐに主治医の先生に電話をかけました。 「先生、薬を増やすのを少し待っていただけませんか。私がご自宅に伺い、まずは今のお薬をきちんと飲めるよう支援したいのです」
医師は私の提案(疑義照会)を受け入れてくださり、薬の増量は一旦見送られ、在宅医療(薬剤師による訪問)として介入することになりました。
自宅を訪問してわかった「残薬」の真実
実際にご自宅を訪問してみると、私の予感は的中していました。 お部屋には、飲めずに残ってしまった大量の「残薬」が見つかったのです。
娘さんご家族と同居されていましたが、お薬の管理はすべてご本人任せになっていました。ご家族も、お父様が薬を飲めていないことや、そのせいで数値が悪化していることには気づいていらっしゃいませんでした。
「一包化」と家族の協力で、数値が劇的に改善
そこで私は、以下の対策を行いました。
- 一包化(いっぽうか): 飲み間違えがないよう、朝・昼・夕の薬を1つの袋にまとめる。
- 服薬カレンダーの活用: 飲んだかどうかが一目でわかるようにする。
- ご家族への共有: 訪問時の状況や数値を娘さんにも伝え、協力体制を作る。
その結果は、すぐに現れました。 薬の内容は変えていないにも関わらず、飲み忘れがなくなり、糖尿病の数値も基準値以下まで改善したのです。
「父が薬を飲めていなかったなんて、知りませんでした。先生に来てもらって本当によかった」 ご家族からは、心からの安堵と感謝の言葉をいただきました。
かかりつけ薬剤師として「暮らし」に寄り添う
この経験を通して、私は改めて薬剤師の役割について考えさせられました。
私たちの仕事は、単に「処方せん通りに薬を渡して終わり」ではありません。 「その薬が生活の中で正しく使われ、効果を発揮するところまで見届けること」こそが、かかりつけ薬剤師の本当の使命なのだと思います。
検査数値が改善したことも嬉しいですが、何より、ご本人様とご家族が安心して笑い合っている姿を見られたことが、私にとって最大の宝物です。
ブルーム薬局上溝店では、これからも「薬を増やす前にできる工夫」を常に考え、相模原の地域の皆さまの健康な暮らしを支えていきたいと思います。 お薬の管理や飲み忘れでご不安なことがあれば、いつでもご相談ください。

【この記事を書いた人】 薬剤師 高橋 透泰(たかはし ゆきやす)
株式会社アトイ ブルーム薬局上溝店 薬局長 神奈川県相模原市在住。
趣味は野球とランニング。 外来調剤のみならず、在宅医療や学校薬剤師、薬物乱用防止活動など、地域医療の現場で幅広く活動中。
ブルーム薬局上溝店が所属している株式会社アトイはこちらのページをご参考にされて下さい。

【次のバトンはこちら!】
次回は、いちょう薬局(東京都)の 氏家先生 にバトンタッチします! どんな「白衣のポケット」の中身が見られるのか、どうぞお楽しみに。
運営からの一言
「薬を増やすのを、待ってください」。
医師に対してその一言を伝えるのに、どれほどの勇気と覚悟が必要だったでしょうか。
「薬を渡すこと」ではなく、「その方の生活を守ること」が自分の仕事だと言い切る高橋先生。 そのプロフェッショナルな姿勢と、ランニング中に顔を思い浮かべるという人間味あふれる優しさに、私たちも胸が熱くなりました。
「最近、薬が増えて心配だな」と感じている方は、ぜひ一度、ブルーム薬局の高橋先生に相談してみてください。きっと、あなたの暮らしに寄り添う答えを一緒に探してくれるはずです。

